2年前、ある地方の食品製造会社が買収されることになった。この会社が所有する食品加工用の機械が売却されることになり、金額は300万円。しかし、その機械は、通常の従業員では、年間2000万円弱の売上を生み出すところ、その会社の特別な技術を有する従業員が操作すると年間1億円のキャッシュを生み出す。結局、その機械は300万円で売却されたが、売却側の経営者であれば、この機械に従業員のノウハウを加味して、もっと高く売却することができたなら、と考えるのではないだろうか。
10月、不動産等の有形資産のみならず、無形資産を評価することで中小企業やスタートアップにマネーを供給することを政府が検討していることが報じられた(令和4年10月19日:日本経済新聞)。金融庁が、従来のような不動産のような有形資産の担保だけではなく、技術力や知的財産も担保にできる新法を検討し始めたのである。似たような事例として、農業分野における地銀の活動では、和牛などを担保にして融資する「動産担保融資」に取り組む事例もある。
例えば、宮崎のような中小企業が多い県は、自身の技術力で融資が受けられる時代が果たして到来するのであろうか。これからの無形資産担保に期待したいが、そもそも、担保とする無形資産を、経営者自身は認識できているのであろうか?それは、中小企業に限った問題ではない。上場企業でも同様である。
例えば、企業が、特許や意匠等の知的財産権を有していれば、それらは無形資産と捉えることができるであろう。しかし、単に、特許等の権利を持っているだけでは、定性的な情報が得られるだけで、定量的な金額に示される価値を測ることは困難である。と言うのは、その企業が、ある特許技術を有しているという事実のみで、市場価値との関連は見えてこない。
無形資産である知財は、そのままでは、いくら儲けているの?という答えには、答えられないからである。そこで、特許等の技術と市場ニーズとの関わりを調べないことには、無形資産を定量的に認識することはできないのである。
現在、市場に敏感な証券会社等の金融機関と、特許を取り扱う知財専門家の連携が始まっている。特許庁も知財金融という言葉の浸透に力を注いでいる。市場を捉えている金融機関の目で、特許等の知財をバリュエーションし、中小企業の事業価値を評価することができるのである。
従来より、大企業のエンジニアは、自身に負わされたノルマで定期的に特許出願し、市場との結びつきが必ずしもあるとはいえない休眠特許を生み出していた現実が日本にはある。しかし、中小零細企業の特許は、その企業のコア技術であり、市場競争力が高い技術の権利を取得されている場合が多い。この中小企業の特許に対する市場に対する評価が充分に行われれば、財務基盤が必ずしも強くない企業が、非財務的な観点である技術力が示す本来的な価値評価に繋がるではないだろうか。例えば、宮崎のような地方では、農業分野、畜産分野において、既に充分な技術力、ノウハウ、営業秘密を有する中小企業も数多い。無形資産を見える化し、市場の評価を検討して、金融機関とともにスタートアップ、中小企業の活性化を期待したい。