約10年前、宮崎市の発明家浜元氏が特許公報を持ってやってきた。自転車のギアに関する特許を大手自転車製造会社に郵送したが、採用されるには至らず「何か手はないか」という相談だった。
その後、浜元氏自身の努力と私のわずかながらの支援で、都内の大手小売企業とライセンス契約を締結。九州イオンの各店舗で販売されるようになった。その商品とは、電気を使わず推進力が得られる「FREE POWER(フリーパワー)」である。
浜元氏は社会保険労務士を営む方で自転車の素人だったが、持参した図面には彼がデッサンした美しい自転車のギアが書かれていた。この発想は世界で自分だけのものであり、自分で商品化するという強い思いが成功を導いたといえる。
これは地方のアイデアが都会の企業に買われた知財マッチングの好例であり、私はこの状況を地方から都会へのアイデアの「輸出」と呼んでいる。
一方、川崎氏の上場企業が使用していない休眠特許を中小企業にライセンスする「川崎モデル」と呼ばれる知財マッチングがある。こちらは都会のアイデアが地方の企業に買われる手法であり、地方にとってはアイデアの「輸入」となる。
このモデルは本県を含む全国の信用金庫などが採用し、成果も報告されているが、地方はアイデアの「輸出」に力を入れるのが本来の姿ではないだろうか。筆者の経験上、都会より地方の方が核心をついたアイデアが浮かびやすい分野も多い。革新的な発想が会議室より現場で生まれるのは自然なことだろう。
オープン・イノベーションの時代といわれる。組織の外部から技術やアイデアを積極的に用いて市場ニーズに応えるサービスや商品を提供していくことを意味するが、「中小零細企業に必要なのか」と問われることがある。この質問はむしろ逆で、アイデア創造、製造、販路開拓の全てを1社で担うことができない中小零細企業こそがオープン・イノベーションの生態系といえるだろう。
いまこそ中小零細企業の時代ともいえる。経費を必要としないアイデア、知の創出は、地方でも十分戦える強力なツール。まずはゆっくり休んで、ご自身がワクワクする発明を週末にでも考えてみてはいかがだろうか。